Episode 7
地震はあるか? 
 このサイトの「バンコクの街」に書いているとおり,バンコクには近代的な高層ビルがタケノコの如く建っている。  建築の心得のある方なら〜恐らくあのアネハさんも〜,立ち並ぶバンコクの高層建築を見て,耐震強度に不安を覚えるかもしれない。 事実,筆者もそうだった。

 タイで過ごした3年間,実際に地震を実感したことはなかった。 時々思い出したようにタイ北部のチェンマイで揺れたとか,バンコクでも揺れを感じたなどとテレビや新聞で報じていたが,筆者自身は「無感」だった。  何度か見聞きした地震の報道であったが,そのどれもがタイ西部のミャンマー国境からさほど離れていないところのものばかりであった。

 火山や地震に密接に関連があるタイの「温泉」所在地を見ると,バンコク西方のカンチャナブリにある Hin Dat温泉 や,北はチェンマイ近郊のサンカンペーン,南はラノーンなどが知られているが, そのどこをとってもタイ西部,ミャンマーとの国境に沿った地域である。

 これを立証するが如く東南アジアの地震分布を,例えば こちらのサイト で調べてみると,2004年12月のスマトラ沖地震 の震央を含め, インドネシアからアンダマン海,そしてミャンマーにかけての地域に地震の発生が多いことがわかる。

 これらの事実から,タイ国内が震源であることは殆ど無いということがいえるであろう。

タイの気候 
 地震とともに,日本の特に西日本で警戒が必要なものに台風がある。 沖縄から九州にかけては,毎年夏〜秋に必ずと言っていいほどいくつかの台風が上陸または接近する。  では,タイには台風が襲来するのだろうか?

 東〜東南アジアに上陸または接近する台風は,フィリピン〜マリアナ諸島近海で発生する熱帯低気圧が発達したものであることが多い。 東の風に乗って日本に来ないまま大陸方面に行く台風を追ってみると,中国の中部以南〜ベトナムにかけて接近または上陸している。  これらの台風は,南シナ海を西進して大陸に至るルートが多く,タイ湾を通って北上してくることは殆ど無い。 勢力が強い台風がベトナム方面に上陸した場合は,タイ東部〜北部が影響を受けることがあり,時々テレビや新聞で取り上げられる。

 一方,インド洋で発生するサイクロンもインド洋東部のアンダマン海付近まで東進することは稀で,結局タイ全土は東西の台風進路の「狭間」に位置する感じである。 そのお陰(?)か,バンコク郊外には長さが 100m もあろうかというお化けのような看板が道路から見えるところに建っている。

 本サイトの「タイの季節は?」に紹介しているとおり,タイには雨季と乾季がある。 タイでは,恒例の自然災害といえば,雨季末期の豪雨による水害くらいか。 気をつけたいのは,例えばバンコクでは大した雨が降らなくても, バンコクを流れるチャオプラヤ川の上流で豪雨があれば,数日後にはバンコクにも影響が及ぶこと。 タイは大陸の国ということを忘れてはならない。

国民性1 
 地震も台風も殆ど無いタイの国。 年中一定以上の気温を保ち,国の殆どは熱帯モンスーン気候で程よい降雨もある。 恵まれた気候の下,果実や農作物は順調に育つ。 国土の面積(日本の1.4倍)と人口(日本の半分)のバランスも絶妙で, 食糧自給率も100%を超える,タイは「強い」国である。

 このような恵まれた環境に育ったタイの人達の基本的な考えは,「サヌック」(タイ語で『楽しい』)である。 日々を楽しく過ごすことが人生最高の幸せ,先のことなんて考えない,考えられないということ。

 滞在中にタイの人達と仕事をする中で,ある程度先が読めることが何度かあった。 そんな時は,「今,こういうことをしておくと,後で楽だよ」とか,「今,これをしておかないと後でトラブルになるよ」と彼らに伝えたが,初めのうちは聞く耳を持たなかった。  我々日本人の眼から見れば,どうして先のことを考えないのだろう?と思うのだが,彼らにしてみれば,どうして日本人は先のことばかり考えるのだろう?ということだろう。

 そのうち,こちらの言ったとおりトラブルになることがあった。 予想できたトラブルだったので,それなりに対処してその場を切り抜けたが,何度かそういうことが続くと,彼らはこちらの言うことを素直に聞くようになった。

 先のことを読めるからといって,それが正しいとか偉いとかいうものではない。 我々日本人が先見性を持つ能力が,少しばかり優れているのは単に日本の様々な環境の下に育ったからというだけのことである。

 日本人は概して外国人のことを,いい加減だとか,その場のことしか考えないなどと,日本人観で評しがちである。 しかし,彼らの眼を通した日本人評もまたそれなりに,それぞれにあることを忘れてはならない。 タイでの3年間で,育った環境が根本的に異なる外国の人と仕事をする時は, 彼らのこともよく知った上でなければ,うまくいかないということを勉強した。 〔2006年2月記〕