Episode 12
メイド 
 さて、ドライバーと並んで話題に上がるのがメイドさん。 「タイでは若いメイドを雇って、至れり尽くせりの生活だったんだろう・・・」と羨ましがれること数え切れないほど。

 東京の秋葉原界隈に流行っているメイドカフェよろしく、皆さんそれぞれに想像なさる自由を妨げるつもりはないのだが、果たして、タイでは本当にそんな生活だったのだろうか?

 バンコクの街には多くの「外国人」(=ここでいう外国人とはタイ人以外の人々)が居住している。 日本人も例外ではない。 街のレストランの風景を見ると、メイドに子供の面倒を見て貰い、 親夫婦は「大人」のテーブルでワインやディナーに興じているメイド連れの欧米人を見ることがしばしば。 子供もメイドに懐いており、まさに家族円満の姿が当たり前のように存在する。 またタイ人の家族の中にも、 それなりに裕福なご家庭では、欧米人同様メイド同伴で食事をされている風景も眼にした。

 果たして同じ「外国人」である日本人はどうであろうか? う〜ん、編集部の取材の限りでは、どこを見渡しても日本人メンバー以外を含む家族連れを見ることはなかった。

アヤさん 
 ところでタイ、殊にバンコクで日本人向けのメイドを、何故か「アヤさん」と呼ぶ。 この「アヤさん」の語源は、中国語からだとかポルトガル語からだとか諸説あるようだが、どれが有力説なのかはよく判らない。  とにかく、日本人向けは一律に「アヤさん」と呼ばれており、西洋人向けのメイドとは職種が異なると言っても過言ではないほどである。

 アヤさんは、それまでどんな家庭に仕えてきたかにも寄るが、一般に日本の家庭料理〜とんかつ、カレー、みそ汁、唐揚げ...etc〜は一通り作ることができる。 味の好みは、それぞれの家庭で教わることになる。 この他に、掃除、洗濯が基本。  家族構成や環境によっては、学校や幼稚園の送り迎えなど子供の面倒をみることもある。

 こう書くと「イイ生活してるじゃぁないか!」と思われる向きもあるだろうが、このアヤさんの募集がなかなか難しい。 地元の日本人会や日本人のネットワークで見つけることになるのだが、何せお互い人間なので相性が難しい。  特に若いアヤさんは経験が浅く、人によってはサボリに走る(不意に出かけていつまでも帰らない、突然休む、頻繁に給金の前払いや前借りを求める...etc)傾向があるので、人選には慎重を期す必要がある。

 ところで、このアヤさんの「雇用責任者」の役割は、その家の奥さまが務めることが多い。 一般に駐在員の奥さま方は日本で人を「雇った」経験が殆どないので、場合によってはトラブルになるケースもあるらしい。

家庭内の第三者 
 なんとか相性も合うアヤさんが見つかり、いよいよ働いて貰うことになる。 部屋のみならず風呂やトイレの掃除は勿論、家族の衣類の洗濯やアイロンがけ、買い物や夕食の準備は全てやってもらえるので、奥さまはそりゃ〜楽になるのは間違いない。

 さぁ時間もできた、ちょっとどこかに遊びに行こうかな...と、アナタはアヤさんを一人住まいに残して外出できるだろうか? あるいは暑〜い日にアヤさんが居る部屋で、パンツ一丁でウロウロできるだろうか? 外から帰ってきて、外した腕時計やポケットから出した財布をどこに置くだろうか?

 「家族以外の第三者が常に存在する」ことに抵抗がなければ、アヤさんに家事を任せて楽な生活を送ることができるだろう。 いつか、どこかに別記するが、西洋人はそれが自然にできる人種である。 だからこそ、外に出かける時にでも家族同様メイドを連れて出かけ、場合によっては他の国の転勤先にまで連れて行き (=それだけ責任もって信頼し)、子供の面倒を見て貰う風景が普通に存在する。 一方で今日の一般的な日本人はどうだろうか?

 タイの裕福な家庭では、メイドとして若い女性を雇って彼女を一人前に育て、就職先や嫁入り先を探すのが「雇用責任者」の義務らしい。 昔の日本の丁稚奉公の制度によく似ている。

 端から見たら楽そうに見えるアヤさん一人の雇用の陰にも、目に見えないさまざまな事柄が存在するのである。 任期が終わって日本に帰国する時に、一緒に連れて来られるようなアヤさんに巡り会うことができれば、それが双方にとって一番の幸せなのかもしれない。  〔2009年11月記〕