Report 16

バンコクの交通渋滞事情
バンコクが世界に誇る(?!)交通渋滞

 バンコクの交通渋滞は世界でも指折りの激しさで,車より歩くほうが速いような渋滞が日常茶飯事です。

 例えば,バンコクの空港(ドンムアン国際空港)から市内中心部まで高速道路を使えば,渋滞無しで30分ちょっと程度の距離ですが, 金曜の夕方などの「定期渋滞」に引っかかったら高速道路を使っても最低1時間,場合によっては2時間以上かかる場合もあります。  金曜日は,翌日が休みの人が多いので何故かみんな車でバンコクに押しかけるのです。 月末の金曜ともなれば, 給料が出たばかり(タイでは月末に給料を貰うケースが多い)なので,バンコクを目指す輩がどっと増えます。  同じタイでも,バンコクから郊外に出れば年末年始や,こちらの正月のソンクランなど特別な時期以外は「渋滞」なんてことはありません。

 どうしてバンコクだけこうも混むのかな? 滞在中のこれまでの経験や見聞から自分なりに分析したところは次のとおりです。

1.都市面積に占める道路面積の割合が極端に低い
 下の表をご覧下さい。 この数字はあちこちからの寄せ集めですので正確さの面ではやや難がありますが, おおよその傾向は掴めると思います。 日本の東京でも道路面積は確保されているとはいえないのに,バンコクは更に都市面積に占める道路面積の割合が低いのです。

表1 世界の都市と道路面積の一例
都市名都市面積に対する
道路面積の割合[%]
ワシントンDC25
パリ20
大阪16
東京14
バンコク8
 この背景には,タイは近代〜現代にかけて,東南アジアで唯一外国に侵略・占領されたことが無い国であることから,昔のままの姿で現代に引き継がれた道路が, 自動車社会に適応しきれていないことが交通渋滞を引き起こしているものと考えられます。

 幹線道路や高速道路の整備状況には,確かに目を見張るものがありますが,幹線道路から一歩路地に入ると,日本でいえば宿場町の旧街道クラスの道路が多く, そこに多くの車が往来しています。 バンコクにはタイの人口の1割(以上)が集中しており,一説によると, タイ全土の6割の車がバンコク及びその近郊を往来しているという噂もあります。

2.限られた抜け道
 下の地図はバンコクの一部の地域のものです。 よくご覧戴くと行き止まりの路地が多いことがお判りになるでしょう。

 
行き止まりが多い路地

 上述のとおりタイは,近世以降外国から攻められたことはありませんでした。 日本の場合は第二次大戦で多くの都市が空襲を受け, 戦後の復興期に道路も併せて整備された面があります。 しかし,バンコクでは歴史上そのような機会がなかったため, 都市全般に渡って道路を含む土地整備がなされなかったのではないかと考えます。

 従って,昔のままの道路をそのまま残し,後に作られた主要道路を結ぶような「抜け道」を新たに作るようなことはなかったものと考えられます。

 日本であれば,碁盤の目のように道路を造るケースが多いので,例えば路地に入り損ねて通り過ぎても,次の路地で曲がって後戻りすれば, 行きたかった路地へ帰ってこれることが多々ありますが,バンコクでは曲がり損なったが最後,またもとの入り口まで戻ってこない限り, 行きたかった路地へは入れない場合が殆どです。

 また,多くが「行き止まり」の路地なので抜け道が限られており,結果して限られた抜け道に車が集中するため渋滞を引き起こしているという現実があります。

3.手動による信号制御
 「えぇ,ホント?」と疑いたくなるのですが,これがまた本当なのです。 バンコクでは下の写真のような「手動信号切替小屋」 (筆者が勝手に命名)が,多くの交差点で見られます。 ここに警官が駐在して,信号を切り替えているのです。

 
あちこちの交差点で見かける「手動信号切替小屋」

 通信・電子技術の発達した現代,交通量を信号によりトータル的に制御することなんて,大した問題ではないでしょう。  カメラで交通量を監視し,交通信号の赤,青の時間を調整すればいい話であって,現に日本では採用されています。

 ところが,バンコクでは何故か今でも昔ながら(?)の手動切替の方法が採用されており,交差点でそれぞれの警官が好き勝手に各車線の信号を切り替えているのです。  時には,交差点のある車線では10分以上も赤のままで,他の車線だけが順次流れていくようなことにも出くわします。  どう考えても周辺の他の信号と連携して動かしているようには見られません。

 従って,ある一定の地域の交通量をトータル的に制御するのでなく,交差点毎に制御することになるので,交通信号間の連携が取れず, 渋滞の一因になっているものと考えられます。

4.交通インフラの不備
 バンコク「最大手」の公共交通機関,それはズバリ,バスです。 毎日夥しい数のバスが朝早くから夜遅くまで,あちこちの通りを走っています。 

道路に依存しないバンコク市内の
公共交通機関BTS(スカイトレイン)

 バンコク市内には,左の写真に示すBTS(スカイトレイン)という高架鉄道が2路線走っています。  バンコク市内では道路に依存しない,いくつかの公共交通機関の1つです。(他にはは川や運河を往来する水上バスや2004年7月に供用を開始した地下鉄など) 料金は区間により20〜40バーツ(\60〜120程度)ですが,これが地元の人にとっては「高い」のです。  同じ区間でバスを利用すると3.5〜10バーツ(\10〜30程度),複数の場合ではタクシー利用で高くても100バーツ(\300程度)で行けます。  アナタがバンコク市民だったら,毎日利用する交通機関としてどちらを選ぶかは明白でしょう。

 また,公共交通機関相互のコネクションが極端に悪く,鉄道の駅・長距離バスターミナル・BTSの駅など,公共交通機関のハブが直結されているところが無いに等しいので, 乗り換えにバスやタクシーなどを使う羽目になり,結果的に道路上の交通機関に頼らざるを得ない状況であることや, 海外からの駐在員が多く,それぞれに車を雇っていること,さらにタイの人たちの間でも車を持つことが一種のステータスであり (かつての日本と同様)車を使って移動する人々が多いことなども交通渋滞に拍車をかける要因となっていると考えられます。

 以上が筆者なりに分析したバンコクの交通渋滞の状況です。 他にも,首都ならではの状況として,王族や国賓などが車で往来する時は, 高速道路も含めて全ての交通が遮断される場合も渋滞を引き起こしますが,これは日本の東京の場合でもあまり変わらないのではないでしょうか?

 バンコクに住むようになって,このような渋滞に毎日のように遭っています。 ここで得た教訓は,時間に余裕を持って出かけるのはもとより,車に乗る前には必ずトイレに行くこと です。 渋滞に嵌ったが最後,特に高速道路上の場合は手の施しようがありません。 また,この渋滞による「経済効果(?=損失)」なんてのも考えてみましたが, それは別のページででも追ってご紹介しましょう。 バンコクでは道路上の交通機関を利用する限り,交通渋滞に対する相応の「覚悟」が必要です!(2002年3月記,2004年10月追記)