Report 33a

タイ鉄道入門
〜 ハード編 〜

ディーゼル機関車で牽引される貨物列車

【電車が存在しない】
 タイの国鉄には電化区間が無いため,日本のように電車や電気機関車は無く,ディーゼル機関車による牽引客車,ディーゼルカーまたは蒸気機関車による牽引車両です。

 世界的に見ると,ヨーロッパの殆どやアメリカの一部など鉄道が日常的に通勤・通学の足として使われている=輸送密度が高い=地域では,日本と同様電化されています。  また現在,鉄道輸送が大きなウェイトを占める中国(本土)でも電化が着々と進められています。 鉄道の電化は,

  1. 機関車や車両に動力源を必要としないので騒音や排煙などがほとんど無く,快適性を確保できる
  2. 機関車や車両に燃料を積載する必要がないので,その分,大きなモーターを積んで高速化したり,多くの輸送量を確保できる
  3. ディーゼル機関や蒸気機関に較べると,即応性に優れ,スピードコントロールがしやすい → 正確な運行ダイヤを確保しやすい
  4. ディーゼル機関や蒸気機関に較べると,総合的にエネルギー効率が高い
などのメリットがあり,鉄道先進国では,鉄道電化は「必須」条件となっているようです。


【メートルゲージ】
 タイの鉄道は,俗に「メートルゲージ」とも言われます。 これはゲージ(レールの幅:正確にはレールの内法)の幅が 1,000mm というわけです。



ゲージ 1,000mm のタイ国鉄の線路

 国際的に見ると,鉄道のゲージは世界最初の鉄道を走らせたイギリスで 1830年にマンチェスター〜リバプール間で採用した 1,435mm(4フィート8.5インチ)を「標準軌」と呼んでいます。  そして,これより幅が広い線路が「広軌」,狭い線路が「狭軌」と呼ばれています。 日本では JR 在来線は 1,067mm (3フィート6インチ) の狭軌,東海道・山陽などの新幹線と多くの私鉄で 1,435mm の標準軌が採用されています。  日本で 1,067mm の狭軌が採用された理由は,1872(明治5)年に開通した日本初の鉄道(新橋〜横浜)敷設の際に,当時のイギリス領だった南アフリカやニュージーランドで採用されたゲージを導入したためと言われています。

 ゲージは広い狭いによって長短あります。 広ければ車両や機関車を大きく作れるので,列車の車両当たりの運搬量を増やすことができ,1度に沢山の車両を引くことができます。 また,安定がいいので高速運転も可能です。  反面,ゲージの広さに応じて,線路を敷くための土地が必要になります。 日本の狭軌 (1,067mm) はある意味で「正解」だったかもしれません。  高速運転を目指した新幹線では激しい議論が展開されましたが,結局標準軌 (1,435m) を採用しています。 そのお陰で,今や世界屈指の 300km/h 近いスピードでの営業運転が実用化されています。

 閑話休題,タイの鉄道ゲージは 1,000mm で日本の狭軌 (1,067mm) に非常に近いので,第二次大戦前後から日本製の機関車や車両が数多く使われています。 なお,タイの国鉄の殆どは単線ですが, 2004年2月現在で編集部が把握している限りでは,北線ではバンコク郊外の Bang Sue からアユッティアー(実際はもう少し北まで)間と,東線のバンコク郊外の Hua Mak から Chachoensao(チュチェンサオ)までは複線化されています。


【日本製の車両】
 タイで鉄道に乗ると,多くの日本製の車両や機関車に出遇います。 一般車両では日本の旧国鉄で使っていたようなものが多くあり,連結部の付近に車両銘板がそのまま残っていることも珍しくありません。

左:カンチャナブリ駅構内の C5615 型蒸気機関車(1935年日立製)
右:1971年新潟鉄工所製客車の銘板 日本の旧国鉄の「お下がり」ということが判る

  第二次大戦中には多くの蒸気機関車(主にC56型)が日本から徴用され,タイに運ばれてきました。 現在でも, 国王誕生日 (12月5日) やチュラロンコン大王(ラマ5世崩御)記念日 (10月23日) などに運行される特別列車などの牽引用に走っています。

 現在の主流はディーゼル機関車+客車か,ディーゼルカーです。 ディーゼル機関車は似たような格好と塗色なのですが,日本の日立製をはじめ,SIEMENS (ドイツの高速鉄道 ICE の主力メーカー), ALSTOM (フランスの高速鉄道 TGV の主力メーカー) そしてアメリカの GE と,世界各国の一流どころを満遍なく揃えているところがタイらしいですね。

 ディーゼルカーは,今まで何度か乗った限りでは日本の東急車輌や日立のものに出遇いました。 最近では韓国製の車両も導入されているようです。

 以上,タイ国鉄の「ハード」の一部を紹介しました。 (2004年2月記)