Report 51

タイ国王在位60周年
60バーツ記念紙幣徹底分析
 2006年6月9日,タイでは現在の国王であるプミポン国王陛下(ラマ9世)の在位60周年を記念して,60バーツ記念紙幣が発行されました。  この記念紙幣は全部で9,999,999枚印刷されたのですが,あまりにも人気があったため,その後100万枚が追加発行されています。 頒布価格は 100バーツで,券面との差額の 40バーツは王室プロジェクトにタンブン(寄進)として寄付されるシステムです。  タイの人達にとって,タンブンは「徳を積む」行為として広く受け入れられています。 国王プロジェクトへのタンブンともなれば,一種誇りに近いものとして受け入れらている筈です。

 現在のプミポン国王は,1946(仏歴2489)年6月9日に,兄アーナンタ国王(ラマ8世)が崩御された直後に国王に即位され,現在までタイの歴史上稀にみる長い期間,王位に就かれています。

 編集部では,この紙幣が発行されたことを 2006年9月頃に知ったのですが,時既に遅しと入手を諦めていました。 ところが 2006年最後の日記 に書いたとおり, 某筋よりこの記念紙幣の入手に成功したのです!  ここでは,これまで数々の(?)タイ紙幣を分析してきた編集部の実績に基づき,この記念紙幣を徹底的に分析してみましょう。

(左)台紙付きの60バーツ記念紙幣 紙幣の上下には国王の在位60周年を祝って発行されたことなどが記されている。  (右上)台紙の表紙 (右下)台紙の裏表紙

 今回の60バーツ記念紙幣は3つ折の台紙に納められており,台紙の表紙には「国王陛下の名誉ある在位60年を祝う記念紙幣」を意味するタイ語が記してあります。 世界一長い地名を探る のページでご紹介しているとおり, タイ語は,一般的に最初の名詞を後に続く形容詞などで修飾していくスタイルをとります。 台紙の表紙のタイトルは,最初の単語は「紙幣」を意味するタイ語(タナバーッ)で,その後に国王陛下の在位を賞賛する数々のタイ語が並んでいる訳です。

 台紙の裏表紙は紙幣の裏の図柄の一部と同様で,国王陛下が農民の声を拝聴されている様子が描かれ,その下には表紙と同じタイトルが記されています。

2006年6月9日に発行されたタイ国王在位60周年記念60バーツ紙幣 (9K7156196)

 こちらが「タイ国王在位60周年60バーツ記念紙幣(筆者が勝手に命名)」の全容です。 左は表の面で,プミポン国王陛下(ラマ9世)がワット・プラケオ境内のアマリン・ウィニチャイ堂の玉座にお座りになられている姿が描かれています。

 右は裏面で,台紙の裏表紙と同じ図柄のほか,国王陛下の姿を中心に中央上部に王室プロジェクトにより建設されたナコン・ナヨーク県にあるクロン・タ・ダン・ダム(バンコクの北東約100km)と,右下に田植えの姿が描かれており,タイ王国における水資源と米の生産の重要性を意味しています。

 
玉座にお座りになる国王の姿 Aの部分は偽造防止のためのホログラム

 表面の中央右側には,他に流通しているものも含めて全ての紙幣と同様,上の段に「ラタ・バーン・タイ」(タイ政府),下の段に「ホック・シップバーッ」(六拾バーツ)とタイ語で表記してあります。

 中央上部,Aの部分の国王陛下の肖像は,以下のようにホログラムになっています。

 
Aの部分はホログラムになっており,光の当たり方で違った画像が見える
(左)タイ語の「60」 (右)算用数字の「60」の周りにはタイ語の祝辞が見える

 国王陛下の肖像の周りは,光の当たり方によって "60" の数字がタイ文字やアラビア数字で現れ,周囲のタイ文字も浮き沈みしています。 このホログラムの技術は,日本の紙幣にも使われており,日本銀行券の 5,000円札や 10,000円札でも見ることができます。

 紙幣を透かして見てみると,これまで見えなかったものが,いろいろと見えてきますね。

 
紙幣を光で透かすと様々な技術が見える

 Bの部分の両面合わせ技は,2004年10月の 新50バーツ紙幣大研究 のページで紹介しているように, タイの紙幣では「定番」となっています。


表面

裏面

合わせ技で「60」


「ソンプラーチャルーン」末永いご健康を
 Cの部分,紙幣中央部の縦の帯は,透かして初めて浮き上がるのですが,この帯にはタイ語で「ソンプラーチャルーン」(末永いご健康を)と記されています。  この言葉はAのホログラムで,アラビア数字 "60" の周りにタイ語で記されているものと同じです。

 右の方には,国王陛下の肖像が透かしとして刷られており,数々の偽造対策がなされています。

 台紙の紙幣の下には,この記念紙幣の「発行諸元」がタイ語で書かれてあったので,ちょっと調べてみました。

紙幣サイズ
印刷枚数
発行日
発行所及び印刷所

縦81mm 横162mm
9,999,999枚
2549(西暦2006)年6月9日
タイ中央銀行 紙幣印刷所

 凄いですねぇ。 タイの人々が,いかに「9」という数字を重用しているかがよくわかります。 縦横のサイズは9の倍数,印刷枚数も 1000万枚ではないのです。 蛇足ですが, バンコクのBTSや地下鉄の駅における電車が発車の際の電子音,よく聞くと9回鳴っているのですよ。


確かに縦は81mm,横は162mm

 最後に,この紙幣のサイズを検証してみました。 映像のとおり縦(短辺)は 81mm,横(長辺)は縦の2倍の 162mm と「設計どおり」。 久し振りに編集部の技術の粋をを結集した(?)「分析」でした。  長々とおつきあい戴き,感謝します。 (2007年2月記)