地震も台風も殆ど無いタイの国。 年中一定以上の気温を保ち,国の殆どは熱帯モンスーン気候で程よい降雨もある。 恵まれた気候の下,果実や農作物は順調に育つ。 国土の面積(日本の1.4倍)と人口(日本の半分)のバランスも絶妙で,
食糧自給率も100%を超える,タイは「強い」国である。
このような恵まれた環境に育ったタイの人達の基本的な考えは,「サヌック」(タイ語で『楽しい』)である。 日々を楽しく過ごすことが人生最高の幸せ,先のことなんて考えない,考えられないということ。
滞在中にタイの人達と仕事をする中で,ある程度先が読めることが何度かあった。 そんな時は,「今,こういうことをしておくと,後で楽だよ」とか,「今,これをしておかないと後でトラブルになるよ」と彼らに伝えたが,初めのうちは聞く耳を持たなかった。
我々日本人の眼から見れば,どうして先のことを考えないのだろう?と思うのだが,彼らにしてみれば,どうして日本人は先のことばかり考えるのだろう?ということだろう。
そのうち,こちらの言ったとおりトラブルになることがあった。 予想できたトラブルだったので,それなりに対処してその場を切り抜けたが,何度かそういうことが続くと,彼らはこちらの言うことを素直に聞くようになった。
先のことを読めるからといって,それが正しいとか偉いとかいうものではない。 我々日本人が先見性を持つ能力が,少しばかり優れているのは単に日本の様々な環境の下に育ったからというだけのことである。
日本人は概して外国人のことを,いい加減だとか,その場のことしか考えないなどと,日本人観で評しがちである。 しかし,彼らの眼を通した日本人評もまたそれなりに,それぞれにあることを忘れてはならない。 タイでの3年間で,育った環境が根本的に異なる外国の人と仕事をする時は,
彼らのこともよく知った上でなければ,うまくいかないということを勉強した。 〔2006年2月記〕